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「少尉!少尉!」

 れいかの声が大帝國劇場のフロントに響きわたる。

「おかしいですわね。フロントに少尉がいたと、フローナは言ってましたのに」
「どないしたんや、れいかはん。こんな朝っぱなから大声だしたりして」

 大きな欠伸を一つ。春蘭が二回ホールから降りてきた。どうやら昨晩も徹夜で何かしていたようだ。

「あら、春蘭。少尉を、お見かけになりませんでした?」
「いんや、見かけへんかったで・・・・神凪はんに何か用があったん?」
「ええ、今日は公演も舞台練習もないオフ。お天気もよろしいですし、少尉をショッピングにでもお誘いしようと思いましたの」
「ふーん。神凪はんをショッピングにねー・・・・ま、神凪はんもタマには外の空気吸いたいやろから、丁度ええかもね?」
「あら、春蘭。あなたは話のわかる人ですわね。センカさんや吉野さんとは大違いですわ」

 れいかは言って笑みを浮かべる。

 今日は花組メンバーにとって嬉しい休みの日である。ただ、公演中の休息といった意味合いの強い休日のため、花組メンバーは他の長期休暇とは違い、疲れのでるような事はせず、のんびりと一日を過ごすようにしていた。意外と子供の面倒見の良い周防は、遊戯室でフローナとシーリスの遊び相手をしていた。ローズは二階テラスでコーヒーを片手に、読書にふけっている。春蘭は徹夜明けのため、これから仮眠しようと考えていた。吉野はというと『掃除道具が壊れてしまった』といって、買い物に出かけて行った。事務に任せればよいと思うのだが、自分で選んだ物を使いたいらしい。・・・・彼女も変わった娘である。センカは『疲れの残らないトレーニング』と称して、早朝よりジョギングに出かけたまま、まだ戻ってきていない。きっと『いやぁ、今日は山ノ手線を軽く一周してきたよ』と平気で言うのであろう・・・恐るべし霧島一族。

「それにしても少尉ったら、何処にいらっしゃるのかしら・・・・・ま・・まさか吉野さんと一緒に・・!」
「そら無いで。吉野はんが一人で出て行ったんは、ついさっきうちが見とるさかい・・・、あ!、そういや・・・」
「何か心あたりがおありですの?」

 ポンッ。と、手を叩いた春蘭にれいかの顔が明るくなる。

「いやな、昨晩少尉とあざみさんが支配人室に入っていくのをチラっと見たんよ」
「少尉とあざみさんが?」

 れいかの顔が、一転していぶかしい顔にかわる。

「気になるんやったら、米田支配人に聞いてみたらどうや?」
「そうですわね。それが手っ取り早いですわね。では、わたくしはこれで失礼致しますわ」
「ほな、また〜」

 ズンズンと支配人室の方に歩いて行くれいかを見送った春蘭は、また大きな欠伸を一つ。

「ふぁ〜〜〜ぁ。さ〜て、寝よか」



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