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 時は少しさかのぼり、10分ほど前。

「まだ待ち合わせの場所には来てないようだな」
「そうみたいやね。ま、ソビエトから来はる人達は、途中寄り道してくるみたいな事言うとったから、そこに行ってみたらどうやろ?」
「でもよ、魔法陣も調べなきゃいけねーんだろ?」

 新轟雷号が停車している場所から地上にあがった神凪達は、最後の仲間達との待ち合わせ場所にきていた。

「それやったら心配あらへん。歩きながらやないと調べられへんし、魔法陣を作り出している物の一つが、店の方向にあるみたいなんや」
「では、その店へ向かいながら調べよう。それで、俺達は何を手伝えばいいんだ春蘭?」

 神凪は春蘭に向かって尋ねた。

「せやねー。ほな神凪はんは、うちの2米ほど前を、センカはんは2米ほど後ろを、うちを挟むようにして歩いてんか」
「なんだ、そんな事で良いのかよ?」
「本当にたったそれだけで調べられるのかい?」
「うちにまかしとき!って。うちの作ったこの『霊探1号』で二人の霊力を測定するんや。んで、2米の間、つまり『霊探1号』と神凪はんらの間に霊的な力が干渉しよると、当然数値が変わりよる。その差違を調べたらこの魔法陣の仕組みが分かるちゅー寸法や」
「なるほど、そういう事か」

 神凪は春蘭の意図に気付き、大きくうなづいた。

「あ、あたいにゃ全く分からねえけど、こんな事で調べる事ができるんなら、楽でいいな」
「そうでもないぞ、調査は春蘭にまかせるとしても、周囲を警戒するのは俺とセンカなんだからね」
「おっと、そうだった。気をつけるよ隊長」
「よし、では春蘭、頼んだよ」
「まかしといて。『霊探1号』作動開始や」

 春蘭は肩から下げた鞄のような形をした「霊探1号」のスイッチを押した。

「あとは歩いていくだけや」

 神凪達は仲間がいるかもしてない店に向かって歩き始めた。

「なぁ、神凪はん。一つ聞いてもええかな?」

 神凪達が歩きだして数分たった時だった。春蘭が神凪に声をかけたのは。

「なんだい?」
「神凪はんって、帝撃に来はる前は海軍におったんやろ?」
「そうだけど、それがどうかしたのかい?」
「なんで、一介の海軍少尉さんが帝撃の事知ってはったん?」

 春蘭は、神凪が帝撃に来る前から帝撃の全貌を知っていた事について尋ねたのである。初代「花組」の大神一郎海軍少尉は帝撃の本当の姿を知らずに配属されてきたというのに、これは妙な事である。

「そう言えば、隊長は来た時から帝撃の事はなんでも知っていたよな」
「その事か・・・。いいだろう、話すよ。俺は江田島海軍兵学校にいた時、第一○八班にいたんだ」
「第一○八班?なんやのそれ?」

 春蘭は首を傾げて尋ねた。

「軍の内部では、兵学校の中でも一番成績の低い人間が集められる所と公表されている班だよ」
「ええ、隊長って落ちこぼれだったのか!?」
「そう見えるかい?」
「え?、いや、そうは見えないけど・・・」

 少し思案顔になっていた春蘭は、ポンッと手をたたいた。

「カモフラージュやな?」
「そのとおり。第一○八部隊は周囲の目から本来の姿を悟られないように落ちこぼれの集団と言われているんだ」
「悟られないように?本来の姿?なんだよそりゃ?」
「江田島海軍兵学校第一○八班。対降魔仕官養成クラスさ」

 衝撃の事実である。

「対降魔仕官養成クラスやて!」
「ああ、その目的の特殊性から普通の仕官達と同じ訓練をするワケにはいかない。かといって、他に養成機関を設けたりしたらすぐに見つかってしまい極秘に訓練する事ができなくなる」
「なるほど、せやから海軍兵学校の中に特別の班を作ったんやね」
「木は森の中に隠すというヤツだな」

 お?センカ、おまえ結構物を知っていたんだな。見直したぞ。

「でも、なんで落ちこぼれの集団にしたんや?目立ってしまうやんか」
「その方がかえって安全だからさ」
「???」

 神凪の言葉に二人は頭をひねる。

「落ちこぼれ集団だったら、必要異常に訓練しても「あいつらは落ちこぼれだから自分達より厳しい訓練をうけるんだ」って思われるだろう?兵学校の内部をみる者達にしても、わざわざ一番下の班に目を向けようとはしないからね。何かにつけて目立つけど詮索されないんだよ。一番下ってのは」

 通常仕官以上の力をつける訓練を、通常仕官並にするための訓練と思わせるのである。これならば兵学校の中でもその本来の目的を隠し通す事ができそうだ。

「なるほど、そういう事か。わざと落ちこぼれのフリをして特訓を受けるってわけか。意表をついてるじゃねーか」
「ホンマや!誰が考えたんか知らんけど、ごっつええアイデアや」
「海軍兵学校に特殊訓練班を設けるという案と、このアイデアを作ったのは吉野君の父上、真宮寺大佐だよ」
「吉野の父親だって?」
「へぇ、吉野はんのお父はんってすごい人なんやなぁ」
「俺が二番目に尊敬する人だよ。俺を帝撃の隊長に推薦してくれたのも大佐だと聞いている」
「ますますもって、すごい人や」
「隊長を帝撃に推薦ねぇ。吉野は偉い親を持っているんだな」
「センカや春蘭の両親も帝撃で活躍した人だと聞いているけど?」
「まあな。あたいの親父もお袋も吉野の両親に負けねえくらい、いや、それ以上尊敬できる人だ」
「うちは・・・」

 ふいに春蘭が立ち止まる

「どうした春蘭?」

 神凪は春蘭の異変に気付いて振り返った。

「な、なんでもあらへん。そやな、うちのお父はん等はそらすごい人やで」

 神凪には、何故か春蘭がわざと明るく振る舞っているように見えてならなかった。

「春蘭・・・」

 神凪が春蘭に向かって、語りかけようとした時それは鳴りだした。

ビーッ!ビーッ!ビーッ!

「なんだ!なんの音だ!」
「『霊探1号』や!こらごっつうでかい反応やでー」
「どういう事だ!」

 神凪は春蘭に近づき『霊探1号』の上部パネルを覗き見た。

「いったいどうなってんだよ!」
「ちょい待ちぃ、今計算しとるんや・・・この数値がこうなって・・・こっちが上がるから・・・!」

 突然、春蘭は周囲を見渡した。

「そうか、そういう事やったんか!」
「どうした春蘭。何が分かったんだ!」
「この魔法陣は霊力を集めるんが目的やったんや!」
「霊力を集めるだって?」
「そうや。ここ横浜は世界中からいろんな船が集る港や。船は人や物を運ぶだけやあらんへん霊力まで運んでくるんや。それが海中にたまって港町は発展していく。それをこの魔法陣が吸い取ってるんや」

 春蘭は海を見つめて言った。

「なんだって?それなら、このまま霊力を取られ続けたりしたら、大事になるんじゃねーのか!」
「海中にある全ての霊力がなくなると、この町は滅びよる。ゴーストタウンになってまうんや」
「どうすれば、それを阻止できるんだ?」
「この魔法陣を作りだしとる霊力を封じこめられた物をかたっぱしから壊したら魔法陣は機能せんようになる」
「こ、壊しても大丈夫なのか?」

 センカは不安げに言う。

「大丈夫やて。この魔法陣の仕組みがわかったんや。壊したかて何かおきる種類とは違うさかい安心して壊したってや」
「よし、ではさっそくあざみさんに連絡だ!」

 神凪が急いで連絡を入れようとした瞬間、遠くから銃声と叫び声が上がった。

「銃声!」

 神凪は銃声の鳴った方へ駆けだそうとしたが、センカに肩をつかまれ止められてしまった。

「センカ、こんな時にいったい何だ!・・・!」

 神凪が振り向くと、とんでもない光景が目に入ってきた。

「隊長、どうやら銃声がどうしたとかいう騒ぎじゃなくなったみたいだぜ」
「まさか住民に化けてるやなんて考えもせんかったわ」

 春蘭の言葉どおり、周囲の人間が次々と魔物の姿へと変わっていく。

「うわーーーー。化物だーーーーー」
「きゃあああああああ」

 突然、人間が魔物に変わりだしたのを目の当たりにした普通の人々は悲鳴を上げて騒ぎ出した。

「あざみさん!あざみさん!横浜市街に魔物出現!至急吉野君達を、神武改を出してください」
『わかったわ、神凪君達は至急戻ってちょうだい』
「了解!。センカ、春蘭。これより直ちに新轟雷号に戻る。俺が前衛を受け持つからセンカは春蘭を頼む」
「わかってるって!春蘭、あたいから離れるなよ」
「頼りにしてるでセンカはん」
「行くぞ!」
「了解!」




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