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 横浜のとあるカフェには、珍らしい客が訪れていた。

「そうですか、マリアは壮健にしてますか」
「ええ、わたし達以上に元気ですよ」

 ロシアから来たという姉弟である。

「でも、驚いたなー、マリアの子供達がこんなに大きく成長しているなんて・・・」
「最後にお会いしたのは十年ほど前ですから」
「そうか、もうそんなになるのか。みんな変わっていってるんだねぇ・・・。変わらないのはこの店とわたしくらいか・・・」

 マスターは遠くを見るような目で呟いた。

「この店は良い店です。願わくばずっとこのまま変わらないでいて欲しいです」

 周防はそう言って当たりを見渡した。 
 その時、一人の男が周防の目に止った。

「ははは、そう言ってくれると嬉しいよ。じゃ、わたしは他のお客様の注文があるから失礼するが、ゆっくりしていってくれ」
「はい」

 ローズは軽く微笑みを返した。

「・・・姉さん」
「どうしたの周防?」
「あそこにいる男・・・」
「!」

 周防の言葉に視線を移すと、そこには尋常ならざる気配の持ち主が座っていた。

「あの気配ただ者ではないわね」
「はい。殺気を押し隠したような気配です。それも妖気に近い………」
「気になるわ・・・。周防、駅に行くのはも少し後になりそうね」
「ええ、そうですね………」

 周防は返事をしてコーヒーを口に含ませる。なんとも良い香りのするコーヒーだ。
 カランコロン
 その客がカフェに入ってきたのは、それから数分がたった頃だった。 

「マイヤ!マイヤ!。早くぅ」
「二人とも、もう少し静かにしなさい」
 
 新しい客は時を同じくして入港してきた船に乗っていた、双子の姉妹とマイヤーであった。

(双子のようですね。姉さん)
(ええ、なかなか元気があって可愛らしいわね)

 周防とローズは、自分達の方を見た少女達に軽く笑みを浮かべた。彼女達がとんでもないトラブルメーカーだとも知らずに・・・。
 騒ぎは次の瞬間に起こった。
 シーリスが奇妙な事を口にしたのだ。

「ねぇねぇマイヤァ。あの人頭にツノが生えてるよぉ」

 店の中に動揺が走り、指を差された男は狼狽する。
 と、同時にマイヤーは姉妹の前にたちふさがり、懐に手を入れた。

「シーリス!フローナ!そこを動くな!」

 叫ぶと同時に懐から抜き出したのはルガー。

 パンッ!パンッ!

 三つの銃声があたりに成り響く。
 あまりの早業にローズと周防は動く事ができなかった。

「うがぁぁぁぁ」

 正確に心臓と眉間を貫かれた男は後方に倒れ込む。

「きゃああああああ、人殺しーーーー」

 近くにいた女性が悲鳴をあげ、店内はざわめいた。
 が、しかし、次の瞬間に起こった事は、店にいた人々を凍りつかせた。

「ぐ、ぐぅぅぅぅ」

 心臓と眉間を打ち抜かれた男が再び起きあがってきたのだ。

「くっ!この弾丸では倒せんか!」
「ぐあをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 男の身体は怒声と共にみるみる姿を変え、醜悪な獣の姿になっていった。

「ば、化物だぁぁぁぁ」

 また他の客が悲鳴をあげる。

「ちっ!」

 マイヤーは再び弾を打撃ち込むがひるむ気配を見せない。その間に人々は出口へと殺到し、つぎつぎと店の中から逃げていく。

 パンッ!パンッ!ガチンッ!

 敵を倒す前にルガーの弾が切れてしまった。

「マイヤー!」

 シーリスとフローナが叫び声を上げたと同時に三人の前に二つの影が躍り出た。

「はぁぁぁぁぁぁ」
「スネグーラチカーーーーー」

 ローズと周防の声が唱和する。

「なに!?」

 姉弟から発っせられた精霊を見たマイヤーは驚愕した。

「ギュワァァァァァァアア」

 魔獣は一際大きな断末魔をあげ、氷りつき砕け散った。

「間一髪ね周防」
「ええ、姉さん。・・・マスター。すみませんが後片付けをお願いします」
「ああ、まかせておけ。しかし、すさまじいものだな、おまえた達の力は。マリアを思いだすよ」

 マスターの声に、マイヤーの眉が反応する。

「母には遠く及びません」
「しかし・・・」

 ローズは今だ警戒を解いていないマイヤーの方に向かって言った。

「よく気がつかれましたね。あの魔物に・・・。それとその銃」

 周防もマイヤーへと視線を移す。

「いや、気がついたのは、シーリスだ」

 そう言って、マイヤーの後から顔を出しているシーリスの頭に手をやった。

「だが、驚いたな・・・こんな場所で元帝國華撃團「花組」マリア・タチバナの子供にあえるとは」

 マイヤーの言葉にマスターと姉弟は目を開いた。

「あなたはいったい!」
「ふふふ、警戒する必要はない。わたしは元帝國華撃團「雪組」隊長。ハインリヒ・フォン・マイヤーだ」
「え!雪組!」
「あ、あなたが元雪組の?」
「ああ、そうだ。そしてこの二人は・・・」

 マイヤーは双子の姉妹を前に立たせ紹介した。

「元帝國華撃團「花組」イリス・シャトーブリアン婦人の御令嬢。シーリス嬢にフロレンティーナ譲だ」
「シーリスです」
「フローナです」

 姉弟は再び目を開かせる。

「イリス・シャトーブリアン婦人の!」
「なるほど・・・道理で・・・あ、申しおくれました。私はローズ・タチバナ。そして弟の・・・」
「周防・タチバナです」

 二人はやや軽く頭を下げる。

「まったく偶然とは恐ろしいものだ。帝國華撃團へと向かう途中、シーリス達にせがまれて立ち寄ったカフェで同じ仲間に出くわすとはな」
「帝國華撃團に向かう?では、あなた方も今日、日本にこられたのですか?」
「ほぅ、では君達も」
「はい、帝國華撃團本部へ行く途中、母の知り合いのこの店に立ち寄ったんです」
「なるほど、この店だったのか。マリアが馴染みにしている店というのは・・・」

 マイヤーはそう言って、マスターに頭を下げる。

「騒ぎを起こしてしまってすまなかったマスター」
「いや、気にしないでください。むしろわたしが礼を言わなければいけません。あのまま魔物がいたらどうなっていたか。ありがとうございます」

 マスターは軽く頭を下げ笑った。

「でも、いったいどうしてこんな所に魔獣が・・・」

 周防が息絶えた魔獣に目をやる、一同に短い沈黙が訪れる。と、その時、外から悲鳴が上がった。

「まさか!・・・シーリス!フローナ!私に付いてくるんだ。マスターは何処か安全な場所に隠れていてくれ!」
「よ、よし。わかった」
「周防!」
「はい、姉さん!」

 マスターを店内に残し、五人は外へと踊り出た。 




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