第四話 運命の絆 後編
帝都上空を、風を切りながら進む乗り物があった。この時代では大変珍しく、かつ貴重なその乗り物には左三つ巴の紋が描かれている。帝國華撃團の特殊高機動旋回航空機「円風」(えんぷう)だ。はやい話がヘリコプターである。
「勝手に持ち出して大丈夫なんですか、米田中将の許可はとっていないのでしょう?」
「しゃーないやん。連絡入れよ思ったらいきなり回線が切れよるんやもん」
「だからと言って……」
「まったく、心配症なんやなー信子はんは。大丈夫やて、もし米田はんに叱られても、責任は全部うちが取ったるって。心配せんとき」
少女達の若々しい声で、通信回線を通し会話が交されている。
「はあ………でも………」
いまいち納得いかないような声だ。
「ああ、もう!辛気臭い。ここまできてしまったんや!覚悟をきめや、覚悟を!」
「わかりましたよ……もう言いません。それで、方角はこの方向で合ってるんですね?」
「せや、この方角であっとる!そっちの計器はいかれとるようやけど、うちの作った『見え見え千里君参号』は、はっきりと霊力を関知しとるで」
「それなら良いんですけど………。でもすごいですね、あの短時間に整備を終わらせてしまうなんて。いつも触れていた私達でさえ、不可能だと思ったのに」
「あはは、うちにかかったら神武改の整備なんて、朝飯前や!なんせ、うちの頭ん中には神武改の設計図が記憶されとるんやから」
暗く閉じられた場所にいる少女はカラカラと笑う。
彼女が米田中将とあざみ大尉に連れられ、花屋敷支部に来たのは2時間ほど前の事だった。本当は病院に行く予定であったが、神田川に魔獣が現われたとの報告を受けたため、米田中将とあざみ大尉は急ぎ本部へ戻ったのだ。当然の如くこの少女も出動を願い出たが、この少女が乗る予定の機体は花屋敷支部にて整備中であった。ために少女は出撃できないのなら、変わりに自分が整備すると申し出たのだ。米田は快くその申し出を受け入れた。
そして、今彼女がその身にまとっている物こそ、帝國華撃團が誇る第三番目の神武改「雷武」である。普通なら半日かかるこの機体の整備を、少女の的確な支持により一時間弱で整備し終えたのである。
「さすが、あの人の娘だけの事はあるわね」
「………うち、そういう言われ方すかんわ………」
「ご、ごめんなさい」
不意に暗くなる少女の言葉に、触れてはいけない話題だと気付いた信子は少女に謝った。
「あ、いや。今の言葉は気にせんといて、なんやいつも同じ事を言われとるから、ちょっとうんざりしとったんや。あははは」
「本当にごめんなさい。これからは気をつけるわ」
「もうええて、なっ。あっ、そろそろ見えて来たで……って、なんや?。うひゃあ、なんか派手にやっとるでー!」
「何、あれは!何かが街を破壊して回っているの?」
信子の言う通り、遥か向こうに大きな砂埃が立ち上がり。次々と建物が倒壊していく。
「それにしたら、動きが不規則やで……ありゃ、なんか追いかけとるんとちゃうか?」
「追いかけるって何を?」
「それを知るためにも、早う現場に行かなあかんのや。信子はん!エンジン全開や!」
少女の言葉に、神武改を吊り下げた「円風」が唸りを上げて飛んでいく。
(………それにしても……あざみはんら何しとるんやろ……道に迷ったんやろか?)
緑色の霊子甲胄に身を包んだ少女は、一人そんな事を考えていた。
「くそっどうなってやがんだ!」
「ここもダメですわ!」
その頃センカ達は………地下をうろうろしていた。
「ザーッ……聞こえるセンカさん……れいかさん…」
「ああ、聞こえてるよ。かなり雑音が混ざっているけどね」
「あざみさん!第七通路も第十八通路も全て閉鎖されていて通れませんわよ!」
れいかは暗い地下道をさ迷い続け、かなり神経質になっていた。
「そこも……ザーッ……ダメなの?例の力の影響はそんな所まで及んでいたのね……ザーッ……これは想像以上に強力な力だわ」
「そんな事はいいからよ、ここからどうしたら上に上がれるのさ。いい加減うんざりするぜ」
「まったくですわ」
吉野が開放した破邪の力の影響は地上よりもむしろ地下の方が強かった。地下に張りめぐらされた龍脈に作用したものだと考えられる。
新轟雷号の使用する地下線路はその特殊性のため、強力な結界が張り巡らされているのだが、先の破邪の力により崩壊、その余波により稼働中の霊子エンジンがダウンしてしまったのだ。
「我慢しなさい。今動けるのはあなた達だけなのよ。さ、次の場所に向かって」
「……へーい。でも走行不能の新轟雷号なんて、地下に眠る鉄の棺桶だぜ」
「……まったく……なんでこのわたくしが……ブツブツ」
まるで、地下を這い回るモグラかネズミのような二人である。この原因が吉野の力であると知った二人が、吉野を苛めるのは後々の事である。
ズッシャーン
遠くでまた、一つの建物が崩壊した。クレングと魅万伽の蛇(みまかのへび)のカーチェイスが原因だ。
「よう、珍しい時に珍しい奴がきたもんだ。まあこっちきて上がれや」
「『よう』じゃないでしょう。こんな時に何をやってんですか?」
大きな屋根の上に座っていた男のもとに一人の優男が尋ねてきたのは、折りしも帝都破壊が行われている真最中であった。
「見て分からんか?酒を飲んでるのさ。どうだおまえも一杯」
「まったく、あなたという人は……………是非いただきましょう」
「へへへ、そうこなくちゃ!ほらよ」
「どうも……。しかし、大工の若旦那が建築途中の建物の屋根で酒もりとは……。けっこうな身分ですね隼人(はやと)さん」
「そういうおまえさんはどうなんだよ。いつもいつもブラブラしててよ、この遊び人が!」
「遊び人は酷いですねー。これでも自分には修という立派な名前があるんですから」
きつい口調ながらも隼人は修のコップに冷や酒を注ぐ。波々と注がれた酒をこぼすまいと修はコップの縁に口をつけすすった。
「ところで、今日は何のようなんだ?ただ酒盛りしにきたわけじゃないんだろう?」
「うーん。ここからだと良く見えますねー。アレが例の化け物ですか?」
隼人の問いを聞き流し、煙の隙間にときおり姿が現れる魅万伽の蛇(みまかのへび)を見つめる。
「ふん、そうだ。今もアレを肴に呑(や)ってたどころだ」
隼人は縁の無いメガネをクイッとあげ、酒を煽る。本名『一条隼人』は根っからの酒好きであり、そのがっしりした体格も酒で作ったと豪語する程である。代々由緒ある大工の家系であり、和風洋風問わずに幅広く活躍しているとの事だ。彼の親父はかの二代目大帝国劇場の設計建築を請け負ったという話である。
かたや、修と呼ばれた遊び人風の男は、パリッとしたスーツに少し小さめの丸い眼鏡と背中まで伸びた髪を一つに纏め、仕事は…………実際のところ、よく知っている者はいない。隼人にしたところで、役所関係に近い仕事であるという事ぐらいしか知らない。まあ、修の職業がなんであれ、大切な友人事には違いはないという事なのだろう。
「何をしてるんでしょうかね?」
「さあな。見当もつかねえよ」
「ま、しかし、これで隼人さんは寝る暇がなくなりますね」
「それと、酒を飲む時間もな。だから今飲み溜めしてるところなんじゃねーか」
「なるほど、それでですか」
隼人の職業は先ほど説明した通り大工である。しかも、彼の親父さんというのが、この帝都の大工達の総元締めでもあるのだ。と、なると息子であり後継者でもある隼人も、今破壊されている建物の修復に駆り出されるのは必定だ。彼はこれから不眠不休の日々が続く事だろう。
「馬鹿な連中がいるもんだから、建てても建てても破壊されちまう…………これが爺さんの口癖だったよ」
「いやはや、今度は孫のあなたの口癖になりそうですね」
「これも大工の家に生まれた宿命ってやつかな。だけど、決して不幸だとか思った事はねえぞ。俺は今の大工の仕事ってのが性にあってるみたいだからな」
「なるほど…………生きがいですか」
修は手のなかにあるコップを一気に空にした。
「おい、もうそろそろ、理由を聞かせてくれてもいいんじゃねえか。俺になにか頼みがあるんだろ?」
「ええ、そうです」
「それはいったい何だ?他でもない修の頼みだ。俺にできる事なら何でもするぜ」
「ありがとうございます。実は今日は隼人さんにではなく『のんだくれ』さんにお願いがあるんです」
「………するってーっと。帝國華撃團がらみだな………米田さんか?」
「はい、あなたに……のんだくれさんに……米田柾成中将閣下と、つなぎを取ってもらいたいんです」
修は真剣な眼差しで目の前の男を見た。
「ああ、わかった。この『のんだくれ』にまかせとけ」
格好良い、隼人という名前から『のんだくれ』という呼び名に転落した男は、そう言って修のコップに酒を注ぐ。
春の風は心地良い気分にさせてくれた。
「うぅぅぅぅぅぅぅ」
「むぐぅぅぅぅぅぅ」
「がんばれ二人とも!もう少しだ!もう少しがんばれば必ず帝國華撃團のみんなが!」
「めのじさん……その言葉、六回は聞きましたよ」
妙兼の放った式神に追いかけられてから、すでに二十分が経過していた。この道を通るのもこれで六回目である。街の被害を最小限に抑えるため。すでに被害にあっている場所を駆け回っていたのだ。その分曲がり角も多くなる。
「わたし……もう」
「しっかりするんだ吉野くん!今、自分を支えられる人間は自分しかいないんだ。気をしっかり持つんだ」
「ごめんなさい吉野さん。わたしに力があったら、吉野さんを支えていられるんだけど……」
「いえ……わたしがしっかりすればいいんです。……そうですよね神凪さん」
「そうだ、その意気だ吉野く……だわあああああ」
「きゃああああああ」
「うくくっ」
急な角を強引にまがろうとして、クレングの片輪が高くあがる。転倒すれすれの角度である。
「び、びっくりしたー。もう少しでこける所だったよ。みんな大丈夫か」
「な、なんとか」
「……大丈夫で…す」
「い、今のはあたしも怖かったですよ、めのじさん(ドキドキドキ)」
「悪い、………どうやらタイヤが限界に近づいているみたいだ………このままだとタイヤが破裂してしまう………」
全員の顔が青くなり。叫び声をあげた。
「えええええええええええええ!」
「仕方ないさ、あれだけの数のカーブを限界ギリギリの速度で走ったんだ。よくここまでもってくれたもんだよ」
「それじゃあ………」
「ああ、あと十回曲がりきれるかどうかってトコじゃないかな」
「その時までに、帝國華撃團のみんなが来てくれなかったら………?」
「この拳で戦うしかないか………」
神凪の言葉に吉野は息を飲む。相変わらず目尻に涙はためてはいたが………………
「ええい。ちょろちょろとうっとうしい奴等め!とっとと観念すれば良いものを」
妙兼の身体にもかなりの疲れが溜まってきていた。これだけ巨大な式神を操るのだ、精神力、妖力ともに消耗が激しい。それに加えて結界を張り自身を蛇の頭部に固定しているのだから、この男の妖力も尋常ならざるものである。亜里沙が一目おくのも無理はない。
ギョキョキョキョキョーーーーーーバシィィィィィィィ!
しかし、先に崩れたのはめのじ達の方であった。ついに、クレングのタイヤがバーストしてしまった。
「な、なんのぉーーーーーー!しっかりつかまってろー」
「ぐっ」
「くうっ」
「うむむっ」
それぞれが自分の体をしっかりと固定させる。
ザザザザザザザザザザッッ…………ブシュー
クレングは最後の四輪(三輪?)ドリフトにより、壁一歩手前で停止した。
「みんな大丈夫か!」
「ええ、大丈夫みたいです。早く外にでましょう。中にいると危険です」
すぐさまドアをあけ、クレングを飛び出した神凪達を待っていたのは妙兼と赤き蛇であった。
「 くっくっく、鬼ごっこはおしまいのようだな」
「ああ、どうやら今回はこちらの負けらしい」
「『今回は』だと?ふっ、次があるとでも思っているのか」
「さて、どうだろう。神凪君、君はどう思う?」
めのじは巧みな話術で時間稼ぎをする。神霊医術といい、蒸気自動車の運転、そしてこの話術。まったくもって謎の多い男である。
「いえ次はありませんよめのじさん。俺達がここであいつを倒してしまったらね」
「そうだな、あいつを倒せば次はないな。うん、神凪君の言う通りだな」
神凪とめのじは、そう言いながらゆっくりと移動する。
「わっはっはっはっは!わしを倒すだと?これは面白い。武器一つ持たぬ貴様らでは傷一つつける事かなわぬわ。それとも素手でこの魅万伽の蛇(みまかのへび)と戦うつもりか?」
「だとしたら?」
「………身の程を教えてやる。いけ魅万伽の蛇(みまかのへび)よ!あの生意気な若僧を喰い殺してしまえ!」
妙兼は蛇の頭上より手近な建物に移り、仮りそめの命に命令を与えた。
「くっ」
シシシシィィィィ
魅万伽の蛇(みまかのへび)が大きく鎌首を上げた刹那………
それは爆音とともに神凪の頭上に姿を現わした。
「そこまでや!」
回転するローターの音に混じって、力強い言葉があたりに響きわたった。
「なにいい!」
「え?」
「あれは!」
「おお!」
「やったあ!間に合った!」
妙兼は驚きの声をあげ、めのじ達は歓喜の声を発した。
「帝國華撃團!」
めのじとさつきの声が唱和する。
「信子はん!固定解除たのんます!」
「了解!」
高度三十はあろうかという位置で、円風は吊り下げていた雷武との接続を解除した。
「いやっほーーーーーー。ええ感じやでー」
関西訛りのある声が、空から勢いよく放射線を描きながら赤き蛇に向かっていく。
ドンッドンッドンッドンッ
ガガガガガガガッ
バシュバシュバシュウ
肩から腰から背中から、ありとあらゆる飛び道具が連続で撃ち出され、魅万伽の蛇(みまかのへび)を中心に大爆発を起こす。
「す、すごい……」
「ふわああ………」
神凪と吉野は目を丸くして、その光景を見つめた。
爆風が降りてくる雷武を押し上げ減速させる。雷武を操る少女は、爆風の影響まで計算していたのだ。
ズズーンッ
小女はその巨体を見事大地に着地させた。
「帝國華撃團、雷武参上!」
シャキーンッ!ビッシイイイッ!バーンッ!
雷武を写すカメラアングルが連続して変わる。この雷武の格好良い登場シーン映像をお見せできないのが残念だ。ふぅ
「待たせてしまった様やな。でも、安心してや。うちが来たからにはもう大丈夫やで」
「おお。その新しい機体は……今日入ってきた新人か!」
「へへ、そうや。あんた、帝國華撃團の関係者か?」
「まあ、似たようなものだ」
めのじは安堵と期待の表情で答える。
「ほな、後ろの三人も帝撃の?」
「そうだ、花組の仲間とそのサポートをする娘(こ)だ。彼は君の隊長だ」
めのじは神凪に目を向け説明する。
「なんや、そやったんか。ま、詳しい事は後でええな。うち春蘭っていうんや。よろしゅう頼んます隊長はん」
コクリッ
「俺は神凪近衛だ」
うなづいた神凪は、素早く名前だけを告げた。
「お、おのれえええええ!」
呆然と立ちすくんでいた妙兼は、怒気もあらわに叫んだ。
「よくもよくも、蝦千瞑様より賜わりし魅万伽の蛇(みまかのへび)を!貴様らーー許さーーん!」
妙兼は袖の中に腕を入れると、灰色の符を取り出した。空に舞い上げられた符はみるみるその姿を変え、数mの高さを持つ鎧武者に姿を変える。
「ええい!虞草兵(ぐそうへい)よ!そやつらを始末しろー」
妙兼の声が建物の間に鳴り響き。十体近くの鎧武者「虞草兵」が一斉に動き出す。鈍速な動きだが、力はありそうだ。
「隊長はん!さっそく命令してや!」
「分かった!春蘭はゆっくりと後退しながらあの式神を攻撃してくれ。それと、あの建物の上にいる男は妖気の塊を飛ばしてくるから、それにも注意してくれ!」
「了解!隊長はん」
めのじは神凪の洞察力に感嘆した。たった一瞬で妙兼の攻撃の正体を見破り、なおかつ雷武の特性をも完把したのだから無理もない。
(若いのに大したもんだ。まるで何度も死線をかいくぐってきたような洞察力だな)
「めのじさんは吉野君達をつれて雷武の後ろに回ってください」
「よし、わかった。で、神凪君はどうするんだ?」
「春蘭の援護に回ります」
神凪は拳を握りしめて言った。
「む、無茶です。素手でなんて」
「そうよ、あいつらはあの神武改に任せるべきよ」
「いや、何が起こるか分からない。後々のためにも神武改に負担は軽い方がいい」
神凪はそう言うと、雷武の横をすり抜け、雷武の攻撃範囲外の敵に向かっていった。
「うおおおおおっ」
虞草兵の攻撃を交わし懐に潜り込んだ神凪は。右手を銅の中心に撃ちつけた。
シュバッ
次の瞬間、眩い光が虞草兵を覆い、ただの灰色に紙切れに変わる。表面の呪文はすっかり消えている。
「ををを!すごいじゃないか神凪君!」
「うわー」
「へーっ」
めのじは叫び、吉野とさつきは驚きの声を上げる。
「ま、まさか、わしの術を解除しただと…………」
「うっひゃー。やるやないか隊長はん。こら、うちも負けてられんでー。ほいっ!」
神凪は続けざまに、二体目も唯の紙へと戻す。春蘭もかけ声とともに肩の砲をぶちかます。
「う、うぬぬぬ。まだだ、まだかわりの符があるわー!」
そう言って妙兼は己が持つ全ての符をばらまいた。
「あ、あかん隊長はん。あれだけの式紙(しき)が実体化したら、とてもやないけど防ぎきれんで!」
「くそ!どうすれば!」
「くかかかかかかっ、全ての符を使って貴様らを殺してくれる!」
妙兼は高笑いをあげ勝ち誇った。
しかし…………
「うおおおお!一百林牌」
「神崎風塵流 胡蝶の舞」
突然、地面が割れ巨大な火柱があがった。
ゴオオオオオオオ!
哀れ、妙兼が空に舞い上げた全ての符は、式神として変化する前に全て火柱に包みこまれてしまった。しかも妙兼の日頃の行いが悪いためか、運悪い事に火柱はその周囲にいた虞草兵をも巻き込んだのだ。
全滅である。
「んな!………」
突然の事に、妙兼を含めた全員がアゼンとする。
「よっこらしょっと」
「まったく、なんだってわたくしがこんな事を……」
「ブツクサ言ってないで、早く上がってこいってんだ」
地面にポッカリとあいた大きな穴から、土まみれの剛武と麗武がはい出してきた。
「おお?。おい、おまえの言った通りだなれいか。みんないるぜ」
「まさか本当に戦っていたとは思いませんでしたわ………」
「れ、れいか君にセンカ君!」
「れいかさん!センカさん!」
めのじとさつきが叫ぶ。
「よう!助けにきたぜめのじ」
「おーっほっほっほっほっほ。来てさしあげましてよ。めのじさん」
「お、おまえ達いったい何処から現われるんだ?」
「いや、こっちにも色々とあってねー」
「ああ!、吉野さん!目が醒めましたのね!」
「え?あ、ええ?」
突然、名前を呼ばれ、吉野は戸惑いを隠せない。
「おお!吉野!無事だったんだな! 良かったよー。………ん!誰だおまえら?」
「お、俺は………」
「う、うちは……」
いったい何がどうなっているのか判断できない神凪と春蘭は、言葉につまってしまった。
「な、なんだ貴様らは!いきなり現われよって!しかも、わしの、わしの符をーーーー!」
頭上に湯気をたてながら、妙兼が叫ぶ。
「おい、なんだよありゃ?乞食か?」
「乞食?えええ!、アレがそうですの?わたくし初めて見ましたわ!」
「こ、乞食だと!この妙兼をつかまえて乞食扱いするとは!許さん!許さんぞおおお!」
ワナワナと震える妙兼だが、すでに符はつきその怒りをぶつける事はできない。
「ち、違うんだ君達!あいつは敵なんだ!」
「何!あんな貧相な奴が敵だって!」
「まあ、なんてみすぼらしい敵なんですの!」
酷い言いようだ。吉野はどう反応していいのか困ったという顔をし、さつきとめのじは呆れはててしまった。
「ねえ、めのじさん………なんか、今まで真剣に逃げまわっていたのが馬鹿馬鹿しく思えませんか?」
「言わないでくれ………俺もそう思ってしまったんだから」
めのじはそう言って顔をそむけてしまった。おそらく悲痛の涙が頬を伝っている事だろう。
「くそおお!貴様ら帝國華撃團とか言ったな。今日のところは引いてやる。今度会った時は皆殺しにしてやるから覚悟しておけ!」
「あ、待て!」
「て、てめえ、逃げるな!アタイと勝負しろ!」
「ちょ、ちょっと!わたくしが来たからといって逃げるなんて卑怯ですわよ!」
神凪、れいか、センカは後を追いかけようとするが、妙兼は霧のようにその姿を消してしまった。
「………アホらし………」
一人残された春蘭はそう呟き、後ろを振り向く。
そこには、脱力して地べたに座り込んだめのじとさつき、そして苦い笑みを浮かべる吉野の姿があった。
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