第四話 運命の絆 後編




 
「だーっはっはっは!」
「うふふふふふふふふ」
 
 大帝國劇場に戻った彼等を待っていたのは、大爆笑する米田と、帰還したあざみであった。
 
「そんなに笑わないでくださいよ、米田さん」
 
 めのじは苦笑いを浮かべた。その横には神凪、吉野、春蘭が並んでいる。
 
「これが笑わずにいられるかってんだ。なあ、あざみ君」
「え、ええ」
 
 あざみも笑いを堪えきれない様子である。
 それを憮然と見つめる影二つ。れいかとセンカである。
 
「いいかげんにしてくれよ支配人、これでも落ち込んでんだぜ」
「まったく、これではわたくしが喜劇役者ですわ!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて、経過はどうあれ、あなた達のおかげで彼等が助かったんですもの。よくやったわ」
「ええ、その通りです。彼女達が来てくれなかったら、自分達は今頃どうなっていたか……本当に感謝しています」 
 
 神凪は感謝の気持ちを顔に浮かべ、れいかとセンカを見た。 
 
「そ、そこまで言われると、悪い気はしないな。なあ、れいか」
「ま、まあ、神凪少尉さんがそういわれるでしたら、わたくしもあの暗く狭い地下を我慢して進んだかいもあるというものですわ」
「しっかし、よくあんな地下から、うちらの居場所が分かったもんや」
「ああ、それはれいかが上で音がするって言ったんだよ」
「ええ、何か爆発の音が聞こえたような気がしましたの」
「それで、あたいが穴を開けて出ようって言ったんだ。いい加減、あんな場所はうんざりしてたからな」

 センカはさも嫌そうな顔で説明した。
 
「それにしても、すごかったです。一撃であの式神達を倒してしまったんですもの」
「ま、偶然だけどな」
 
 吉野が二人を褒めるが、米田が盛り下げる。
 
「米田支配人、からかうのも、その位でやめてあげたらどうですか?」
「ん?、んん。そうだな、このくらいでやめておくか」 
 
 またもや、憮然とする二人を可愛そうに思ったあざみは、米田をたしなめる。
 
「とにかくだ、皆無事でなにより。さて、神凪、吉野、春蘭、色々あったが、とりあえずはおめえらも今日からこの帝國華撃團の一員だ、がんばってくれ」
 
「はい、神凪近衛!粉骨砕身の思いでこの帝都を守る所存です」
「わたしも微力ながら、平和のためにがんばります」
「ま、うちに任しといてください」
「うむ、みんたのんだぞ」 

 ツイと、れいかとセンカが近寄ってくる。 
 
「神凪隊長、吉野、春蘭!これから頼むぜ」
「神凪少尉、分からない事があったら、わたくしにおっしゃってくださいな」

 みんな、それぞれに挨拶を交わす。 
 
「ところで、米田さん。おれはどうすればいいんですか?」
 
 めのじは真剣な目で米田を見る。
 
「安心しろ、とりあえずこの近くの病院に話はつけてある、明日にでも挨拶に行こうや」
「それを聞いて安心しました」
「ふふ、失業しなくてすんだわね。めのじさん」
 
 あざみがそう言うと、皆一斉に笑いだした。
 
「それはそうとよ、舞台の方はどうするんだ。来月だろ? 特別記念公演は。」
「そうですわ。人数はまだ足りませんけど一応配役を決めて練習しないと、公演に間に合いませんわよ」
「うむ、そうだな。吉野!春蘭!。二人とも、ここにくるまでに舞台の練習はしていたんだろう?」
「は、はい。母と一緒に練習してました」
「うちもや。おかんといっしょに、嫌っていう程練習したで」
 
 二人の返事に米田は満足げにうなずいた。
 
「では、なんとかなるな。ま、足りないメンバーは他の組に応援を頼むからよ」
「演目は白雪姫ですね?」

 神凪はそう米田に尋ねる。

「よく知っているな。めのじに聞いたんだな?」
「はい、めのじさんに伺いました」
「ははは、ちょっと面白い考えが浮かんだものですから、からかい半分で話したんですよ」
「ほう?聞かせてくれんか?」
「いいですよ」
 
 めのじは米田の横にいき耳打ちした。
 
「め、めのじさん!それは!………」
 
  神凪が話の内容に気付き止めようとするが、時すでに遅し。米田の顔が次第にニヤけてくる。
 
「なるほど、そりゃ面白いな」
「なに二人でこそこそ話しとんねん?うちらにも聞かせてーな」
「そうだぜ、ナイショ話はずるいぜ」
「まあまて、とりあえずは配役を決めてからだ、それから話したやる。で、おまえらは役は何がやり演(や)りたいんだ?」

 米田は含み笑いを浮かべ、問いかけた。 
 
「わたくしは白雪姫をいじめる女王がいいですわ」
「なにー!れいかがいじわるな女王の役だって!」

 センカが大声をあげる。よほど信じられなかったのだろう。 
 
「あら、わたくしが女王の役を選ぶのが、そんなにおかしくて?」
「あたいは絶対白雪姫の役をやりたがると思っていたんだぞ」
「ふ、わたくしが白雪姫なんてあたりまえすぎて面白くありませんわ」
 
 れいかの言葉がいまだに信じられないセンカだが、その配役希望に喜びを隠せない者がいる。米田だ。
 
「よし、んじゃあ、れいかは女王役に決定だ。変更はできんからな」
「おーっほっほっほっほ、この神崎れいか。一度言った事は曲げませんわ」
「うむうむ、では他のみんなは何が演りたい?」
「うちは笑い専門やからなー。小人の役でええわ」
「わ、わたしは…………
「あら、吉野さんの役は決まってましてよ」
「え?」
「そうか、白雪姫!。れいか、おまえこれを狙ってたな?」
 
 れいかはセンカを見てニヤリと笑う。
 
「そ、そんな……わたしが白雪姫だなんて……」
「なるほど、そういや吉野はんは、こっちきてスグに意識不明になったんやてな。ぴったしの役やんか」
「で、でも………」
「吉野君、実は俺もそう思ったんだよ。病院でめのじさんに話を聞いた時にね」
「か、神凪さん」
「吉野、おまえが白雪姫だ。それでいいな?」 
 
 ニヤニヤと笑う米田は、そう宣言した。
 
「は、……はい」
 
 吉野は、この配役に気恥ずかしく感じたが、初舞台でヒロインを演じれるとあって、うれしくもあった。
 
「じゃあ、アタイが王子役になるのか」
「他に誰がいるというんですの?背も高いんですからピッタリの役ですわ」
「ふん、どうせアタイはでかい女だよ」

 だが、次の瞬間発っせられた米田の言葉は、れいかとセンカのやりとりを止めるものだった。 
 
「いや、センカには、白雪姫を小人の所へ案内する木こりの役をやってもらいたい」
「ちょいまち、 せやったら誰が王子の役をやんねん。まさか他の組にまかせるなんて事はせんやろな?この演目、一応はうちら花組の舞台なんやで、最後をしめる王子役を他の組に譲るなんてのは、うちはなっとくできひんで」
「そうですわ!木こりこそ他の組に頼むべきですわ」
「まてまて。おまえら何か勘違いしてねえか?今回の白雪姫はたしかに花組の公演だ。だけどな、これは特別記念公演でもあるんだぜ。白雪姫さえ花組から出せばとりあえずはいいじゃねえか。それに今回に限りオレも小人役で出るつもりだしな」
「えええええ!」

 全員が驚きの声をあげる。 

「本気ですか?米田支配人」 

 あざみまでもが信じられないという顔で問いかけた。 

「ああ、本気だとも。男が出るのは別にこれが初めというわけじゃねえんだ。おめえらのおふくろさん達の時にやった特別公演『シンデレラ』も、王子役が男だったしな」 
「その話は聞いてるけどよ」
「うちも、その話は聞いとるわ。以外に反応はよかったようやで」
「ま、そういうわけだ」
 
 流石に断固として反論する理由がないので、戸惑いながらも全員了承した。
 
「じゃあ、王子役はどの組の方が演じられますの?下手な人はお断りですわよ!」
「何言っとるんだ?おれは他の組の奴を王子役にするとは言っとらんぞ」
「で、でも……」
 
 米田はますますニヤニヤと笑う。その瞬間、神凪の背中に悪寒が走る。
 
「いったい王子役は誰が演じるんですか?米田支配人」
 
 白雪姫役に決まった吉野は、相手方の人間が気になるようだ。進んで米田に尋ねてみる。
 
「吉野、ここにいるじゃねえか。おめえの横によ」
「え?」 

 吉野の左は春蘭だ。彼女はスデに小人役と決まっている。 
 動揺をおさえつつ右を振り向く。
 吉野の視線の先には、ひきつった顔の神凪が立っていた。 

「エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」 

 その時、大帝國劇場は、赤い夕日に照らされていた。

 
    

 

 深夜、消灯時間がきていた。
 吉野は帝都についてから今までの事を、手紙にしたためていた。
 上野で出会った幼い姉弟の事から、舞台で白雪姫を演じる事になってしまった事までを、こと細かく。
 
 そうそう、あの幼い姉弟の母は各地で物を売り歩く行商をしていたという事が判明した。
 毎日の心労がたたり、上野公園で倒れていた所を警官が見つけ、めのじのいた病院に運び込まれていたのだ。幸い、あの式神事件が起こる前に病院を移したため、母子ともに無事だという話だ。
 しかし、今のまま行商を続ければ、また母親が倒れるのは目にみえている。そのため米田が「吉野があの姉弟を助けたのも何かの縁だろう。わしがもっといい働き口を紹介してやらあ」と、吉野を安心させたのは余談である。
 
 ともあれ、少しばかり内容を省いた手紙は白い封筒に入れられた。
 吉野は部屋の電気を消し、ベットへと入った。
 
(本当、この二日間いろんな事があったわ)

 吉野は柔らかい布団にくるまりながら、初の帝都での出来事を再度ふりかえっていた。 

(でも神凪さんが王子役だなんて……) 

 米田の衝撃の発言に、一番騒いだのはれいかであった。やはり自分が白雪姫を演じると言いだしたのだ。結局は、神崎れいかに二言はないと口にしてしまった事をたてにとられ、最後はしぶしぶと引き下がった。ただ、この出来事により明日かられいかの吉野いびりが始まる事だろう。 

(神凪さんが王子様…………)

 ボッ 

 突然、吉野の顔が熱くなる。 
 暗闇の中なので確認できないが、おそらく今までで一番真っ赤な顔をしているに違いない。
 
(わ、わたし、神凪さんとキスしたんだ…………)
 
 人は冷静になった時、過去を振り返るという。
 吉野はベットに入って、ようやく自分のしでかした事を完全に理解したのだ。


 大帝國劇場にきて初めての夜。
 吉野の夜はこれからはじまるのである。 
 
 






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