第八話『過去の遺産』



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 支配人室を出た神凪は歓迎会の会場になるサロンへと足を運んだ。
 サロンでは丁度センカと周防が歓迎会の準備のため場所を作っているところだった。
 元からあった長椅子は片付けられており、変わりのパーティー用の大きなテーブルと人数分の椅子が配置されている。この短時間に全て二人だけで準備したのだ。流石というか当然というか、とにかく凄いことである。

「流石にセンカと周防だな、もうここまで用意したなんて」

 入ってきた神凪は素直に感心した。

「よう隊長。早かったじゃねーか」

 鳥頭なのか、センカは平然と『隊長』と返すと同時に、神凪の入ってきた扉に目を向けるとオヤ?という顔をした。
 ドアの前に立っていたのは、神凪一人だったからだ。

「アレ?真澄はどうしたんだ隊長。一緒じゃないのか?」
「米田支配人に『彼女ともう少し話をするから皆を手伝ってこい』って言われてね。恐らくは『彼女を引き止めておいてやるから、その間に皆に理由を説明してこい』という意味なんだろうけど」
「では、上手く誤魔化せたんだな」

 周防が近付いて来た。

「かなり情けない理由になってしまったけど、一応は・・・ね」

 そう言う神凪は、なんとも言えない表情をする。

「へぇ、で、どんな理由なんだ?」
「今から説明するよ。と、その前にセンカ。【隊長】は駄目だろ?」
「あっ、いっけね。つい言っちまうんだよな、わりぃ」

 片目をつぶるセンカに、周防が厳しい視線を送った。

「ツイでは済まないぞセンカ。くれぐれも気をつけろ」
「わかってる、わかってるって。そう睨むなよ周防。な?」

 元々の原因が自分にあるため、キツク言えない神凪は軽くため息をついた。
(俺のせいで無理させるのは心苦しいけど・・・・・なんとか最後まで頑張って欲しいな)
 そんなことを頭に思い浮かべていると、れいかと春蘭がサロンに入ってきた。

「なんや神凪はん、戻って来てたんかいな」
「ああ、なんとか支配人に説明してもらったよ」
「さよか。そりゃ良かった。ところで真澄はんは何処いったん?」
「そうですわ、真澄さんは何処にいますの?」

 春蘭の問いに、れいかも便乗する。

「まだ米田支配人と話し中だ。しばらくは出てこないと思うよ」
「なるほど、誤魔化しをウチらに伝える時間稼ぎに、米田はんが引き止めてる訳やね」

 相変わらずスルドイ推理探偵春蘭である。

「今からセンカ達に説明するところさ。丁度いい、一緒に聞いてくれ。吉野くん達にも説明しないといけないから手短に話す。米田支配人が考えた理由は・・・・・」

 近くの椅子に座った神凪は、米田がでっち上げた理由を皆に聞かせた。
 架空の雑用係から盗難。自分が手伝いとして貸し出されたという設定まで。
 念のために真澄の反応も交えて。
 全てを話し終えたとき、サロンは爆笑の渦に包まれた。

「あーはっはっは、そりゃいいぜ隊長」
「くっくっくっ、流石は米田はん、もう最高。くっくっく、あたた、笑い過ぎでハラがハラが痛い〜〜〜〜」
「ぷっ、ぷぷっ・・・な、なかなか考えますわね。そんな理由なら秘密にしておかないといけませんわね。ぷぷっ」

 素直に笑う3人だったが、一人周防だけは笑い声をあげなかった。
 ただ、顔が硬直し微かに肩が震えているところを見ると、笑いを堪えているようである。周防らしいというか、もう少し感情を表に出しても良い気がするが、性分なのであろう。冷静にコメントを返す。

「内容はともかく、近衛の件はなんとかなったというわけだ。さっそく皆に知らせないといけないな」
「俺はこれから厨房にいってローズ達に話しておこうかと思ってる。周防は他の連中に話しておいてくれないか?」
「了承した」

 言って、周防はスタスタと早足で出ていった。笑いを堪えるのが辛いからであろう。

「いやぁ、笑わせてもらいましたわ神凪はん。しかし米田はんもやるもんやね。上方落語しはったらごっつうハマるんちゃうかな」
「勘弁してくれ。ただでさえからかわれ気味なのに、落語を趣味にされた日には、どんなことをネタにされるかわかったものじゃない」

 心底、嫌そうな神凪を見て、再び春蘭は笑う。

「それはそうと、二人の方の準備はどうなってるんだ?」
「ほっほっほっ、完璧ですわ」

 れいかは、『完璧』の部分のアクセントを強調し、華やかに答える。

「準備言うたかて、簡単なもんや。あとは、飾りつけだけやしね。ここはうちらがやっとくさかい、神凪はんはローズはん達に説明にいっといてんか」
「ああ、わかった」

 軽くうなづいた神凪は、ゆっくりと部屋を出ていった。厨房に笑いがこだまするのも時間の問題であった。


    



「しかし、また面白い言い訳を考えたものですね。米田支配人」

 真澄は笑顔を浮かべながら、米田に言った。

「本当のことを話しても良かったんだがよ。そうすると、おめぇさんの事も話さにゃいけなくなるしな。そうなると、何かと不味いんだろ?」
「ええ、もうすこし。少なくとも儀式が終わるまでは伏せていたいですから」

 神凪が出ていった支配人室では、真澄達が会話を続けていた。が、どうも様子が違う。

「儀式ねぇ。さくらから聞いてはいたがよ。そんなに厄介な物なのかねぇ?」
「厄介ということはないんですが、儀式が終わるまで依守(よりがみ)とした吉野には知られる訳にはいかないんです。せっかく、今まで秘密にしてきた全てが台無しになってしまいますから」

 真澄が今まで吉野に秘密にしていた事。それは加藤家の血にあった。
 実は加藤家は代々陰陽を生業とする一族だったのだ。そして真宮寺家に留まらず、米田やあざみの家系とも、少なからず縁を持っていたのである。その為、真澄は全て知っていたのだ。吉野の帝都行きの目的、帝劇の裏の顔。そして・・・神凪が帝國華撃團の関係者だとも推測していたのだ。
 それら全てを知っていながら、黙っていたのだから、なかなかのキツネぶりである。
 そんなきつねの真澄は、あざみが入れてくれた、こぶ茶を啜った。
 ちなみに米田の湯のみにだけ『米から作られた透明な水』が入っているのは余談だ。

「龍神を祀る民による依守の要・・か。でも、血縁でない者に術を行使するなんて本当にできるの?本来は巫女の護身法だったはずよね。たしか、正式には龍鱗神守(りゅうりんのかみもり)だったかしら?」

 あざみが疑問を口にする。帝撃内では米田とあざみだけが知っているのだ。加藤真澄の目的を。

「よく御存知ですね。宮藤の守(まもり)の方が龍鱗神守を知ってるなんて、正直驚きです」

 真澄の言葉にあざみは苦笑した。

「宿敵と呼んでいた頃の名残よ。宮藤には加藤家を調べた膨大な資料が今でも残ってるの。もっとも、宿敵と呼んでいたのは藤の宮の方だけで、加藤家の人達はそうは思ってなかったのでしょうけれど」
「加藤の敵は宮藤の守だけではありませんでしたから、宿敵とかそういうのを考える余裕は無かったと思います。他人事みたいに言いますけど。まぁ実際、私的には他人事なんですけどね」

 クスリと笑う。

「加藤に宮藤・・・・か。確か、木月(きづき)の仲介で手討ちになったんだったなぁ?」
「手討ちなんて、そんなやくざみたいな表現やめてください。支配人」

 あざみはたしなめるが、真澄は手討ちという表現が気にいったのか、クスクス笑っている。

「実際には木月の方は助言してくれただけで、本当に収められた方は別にいたんですけどね」
「それが真宮寺というわけか」
「ええ、加藤家は真宮寺の当主の力添えによって長い因縁の歴史を断ち切ることができたんです」
「なるほどねぇ。それで、おめぇさんは真宮寺の次期当主となる吉野に対して龍鱗神守ってのをかけるってわけだ」
「いえ、違います」

 真澄は、米田の質問に笑顔で即答した。その答えにあざみは怪訝な顔をした。

「真宮寺のために儀式を行うのではないというの?」
「当然です。個人的に真宮寺一族に対し、どうこう思った事はありませんから。過去は過去、今は今です」
「ほう、それじゃおめぇさん。どういった理由で龍鱗神守を行うってんだ?」

 なかば真澄がどう答えるのか分かっていながら、米田は訪ねる。口元がニヤリと笑う。

「吉野のために決まってるじゃないですか。たとえ吉野が真宮寺でなかったとしても龍鱗神守は吉野にしたと思います。逆に言えば、真宮寺に吉野がいなければ、真宮寺そのものは知ったこっちゃありません。さくらおばさま達には悪いですけどねぇ。まぁ、現実として真宮寺に吉野がいたので万事めでたしめでたし。といったところでしょうか」

 言いきった真澄の言葉に米田は声をあげて笑った。

「だーっはっはっはっはっ。こいつはいい。おめぇさん、いい性格してるなぁ。おっと、これは俺なりの褒め言葉だぜ?」
「いえ、我ながらそうとういい性格だと思ってますから、気になさらないでください」

 真澄は笑顔で答えるが、その表情に嫌味などはなかった。それどころか清清しいとさえ思える。

「吉野は、とんでもない友人を持ったみたいね」

 苦笑しながら言うあざみに、真澄は即答する。

「それはこっちも同じですよ。帝劇の女優とは仮の姿で帝都の平和を守る秘密部隊の隊員が親友ですよ?かなりとんでもない友人の部類に入ると思うんですけど。オマケにドジで泣虫でお転婆で・・・・っと、お転婆は人のこと言えないか」

 おとがいに指をあてながら笑う真澄を見てあざみは、今の吉野があるのもこの娘のおかげなのかもしれない。と思った。

「まったく、おもしれぇ娘だな。ところで、吉野が帝撃に入るといつ気がついたんでぇ?さくらからはそのことは本人から聞いかれたほうが良いって言って教えてくれなかったからなぁ」
「帝撃に入ると知ったのですか・・・・・・それは、アノ時ですね」

 再び、こぶ茶で唇を潤し、真澄は続けた。

「私、物心ついた頃には吉野と遊んでたんですよね。父の仕事の関係で仙台に移ってから私が生まれたんですけど、その頃には過去の関係からさくらおばさま達とは交流があったようで、度々両家を行き来はしてたみたいです。そして私と吉野が生まれて・・・・同い年だし、姉妹みたいに遊んだのを覚えてます。ずっとその関係が続いてたんですけど、一応は私、加藤の家の者じゃないですか。その、一般的にいう修行やら何やらを始めるようになってから、四六時中吉野とべったりって時間は少なくなったんです。吉野の方も剣道を始めるようになったし」

 そう語る真澄は、懐からお守り袋を取り出した、中には一枚の写真が入っていた。

「これ、3年近く前の写真なんですけど・・・」
「あら、可愛い。吉野と真澄さんね」

 綺麗におめかしした二人が並んで立っていた。本当の姉妹のように見える。

「はい、私が持ってる写真の中でも特に気に入ってる写真です。そして、この直後でした・・・吉野に大きい霊力があると知ったのは」

 真澄の言葉に、米田の眉が堅くなる。今までのおちゃらけた雰囲気が形を潜め表情に変わる。

「おめぇさん。まさかアレを知ってるのか?」
「はい米田支配人・・・いえ、帝國華撃團指令米田中将の考えておられる通りだと思います」

 その言葉を聞いた米田は深く、椅子に腰掛け直した。あざみも表情を堅くする。

「そうか、おめぇさんもアレを知っていたんだな」
「はい、私自身はその時の状況を直接見たわけではないですけど、その現場ははっきりと見ましたし、吉野がどうなっていたのかも知っています。父や母もあれこれと駆けずり回っていましたから」
「そうか、んじゃ、アレに係わる第三の人間そのものは見てねぇワケだ」
「幸いというべきか、運が悪いというべきなのかは分かりませんが、合ってはいません」

 真澄の言葉に米田は深く息を吐いた。

「幸運だったと言うべきかもしれねぇな。アレは半端じゃなく危険だったようだからな。合っていたら何らかの影響を受けたに違いねぇ」
「さくらおばさまにも似たような事を言われました。その時に両親から全て聞いたんです。加藤家と真宮寺の縁、真宮寺の宿命、破邪の血統を。加藤の名を継ぐ者として知っていた方が良いって。もっとも、その時の話はほとんど覚えていませんが。帝撃のこともその時に聞いたんです。さくらおばさま達から始まったって。そして、いずれは吉野も行くだろうって・・・・・」

 真澄は一息ついて湯のみを置いた瞬間、クイッと顔を上げてブスッっとした表情になった。

「それよりも、どう思います?12〜3の子供に何時間も延々と難しい話をして理解できると思いますか?もう拷問ですよ。あの時ばかりは両親を呪ってしまいましたね。うんうん」

 雰囲気を和ませようとしたのだろう、真澄は軽く愚痴をこぼす。そんな真澄の気持ちを汲み取ったのだろう、米田は彼女の言葉尻に乗った。

「真澄の親御さん等の気持ちも分からなくはないが・・・まぁ、アレの後じゃ俺だってそうしたかもしんねぇな」
「ええ、そう思って今は呪ってなんかいません、ただ、ちょっと思い出して腹がたってるたけです。少なくとも全て教えてくれたことは感謝しています。おかげで吉野を護るって決心できたんですから」
「それで龍鱗神守を吉野に・・・」

 真澄は頷き、軽く笑みを浮かべた。

「苦労しました。1年の間、毎日魂込の儀をして、それが終わったら刻鱗の儀を1年。我ながらよくやったと思いますよ」
「その苦労もようやく報われるってこった」
「ええ、本人に知れると言魂が走り効力が半減するんで、それまではナイショにしておかないといけないんですけど。まぁ、そこら辺りについては米田中将の方が詳しいと思いますけど。神名閉事(かむなのしめごと)などの失われた術もありますし。ねぇ?」

 言って、真澄は米田に向けて意味ありげな笑みを浮かべる。あずみは何を言ってるのか理解できない様子であったが、米田は、心底驚いた表情を浮かべた。

「おいおい、なんでオメェがソレを知ってやがるんだ?」
「あ、やっぱりそうなんですか?いやぁ、もしかしてそうじゃないのかなぁ。と思ってたんですけど、そうかそうだったんですか。うふふっ」

 やられた!米田は苦虫を噛み潰したような顔になった。真澄は米田にカマをかけたのだ。それについ乗せられてしまったのである。(まったく、こんな小娘にしてやられるたぁ、俺もヤキが回っちまったか。いや、こいつが普通じゃねぇのかもしれねぇな。末恐ろしい娘だ)

「・・・食えねえ奴だ。まぁ、ノせられた俺も悪ぃんだがよ。くれぐれも・・・」
「皆には秘密。ですね?わかってます。米田中将の十数年に比べたら、自分の2年なんて短い物。お気持ちお察しします」

 その言葉に半ば唖然とする米田。こちらの言葉を全て先読みしているかのような言動だ。何やらこちらが誘導されているような気さえしてくる。しかし、そんな真澄に何か頼もしいものを感じていた。

「つくづくもって食えねえ奴だ」
「アレの事とか、まぁ色々ありますけど今言っても仕方のないこと。それはその時が来れば話せばいいと思います。ともかく今回の帝都来訪の本当の目的は、儀式の総仕上げをするためです。そのために来たんですから」

 一息ついて、外の景色に視線を移し真澄は続ける。

「残念なことに私は霊子甲冑には乗れません。だから、この儀式は吉野にしてあげられる精一杯の友情の証です」
「そうか。吉野は本当に恵まれた奴だな」
「そうでもないかも知れませんよ?。なにせ、この貸しは高くつきますから。後で利子をとって倍返ししてもらう予定です」

 真澄のその言葉に一瞬、目を丸くした二人は、同時に笑い声をあげた。

「だーっはっはっは、まったくたまげた娘だ。おめぇさんわよ。高利貸しよりもタチが悪ぃ」
「いえいえ、友情は安くないんですよ色々と」

 暗い話題でもマイペースを貫こうとする真澄を、米田はすっかり気にいってしまった。吉野の前向きな姿勢も真澄を見ていると納得する。それだけに自分というものをしっかりと持っている娘だと思った。

「まぁ、オレが今さら言うのもなんだがよ、これからも吉野のことよろしく頼むわ。加藤真澄」

 米田が言うと、真澄は今までに無いくらいの笑顔を浮かべ言った。

「やっと名前で呼んでくれましたね。苦労しました、ここまで来るのに。ああ、それと吉野の事は言われるまでもないですよ。これでも地元では本当の姉妹以上に姉妹みたいだと言われる仲なんですよ。あ、もちろん私がお姉ちゃんなですけどね。ドジな妹を持つと苦労しますよ。ホント」

 その言葉に、米田とあざみは再び笑い声を上げた。米田にしては珍しく爆笑といっても過分無いくらいに笑い転げたのであった。
 どんな事があっても、花組のみんながいる限り、真澄がいる限り吉野は大丈夫だ。そう思う米田とあざみだった。
 そう、どんな事があっても加藤真澄がいる限り、吉野が絶望することは無いだろう。加藤真澄がいる限り。

ドンドンドンッ

 突然、支配人室の扉が叩かれたのは、米田達が笑っている最中であった。

「あ、あの、わたしです吉野です!」

 やってきたのは吉野であった。だが、どうも様子がおかしい。慌てているような口調である。

「おう、へぇんな」

ガチャリッ

 勢いよく扉が開き、吉野が駆け込んできた。

「吉野、どうしたの?」

 真澄の声に一瞬顔を向ける吉野だったが、スグに顔を米田とあざみに向け直し、まくしたてた。

「米田支配人!大変なんです!春蘭が・・・春蘭が!」

 吉野の声に、米田が表情を変えた。

「落ち着け吉野、春蘭がどうしたって?」
「春蘭が・・春蘭が大変なんです」
「あん?・・・・・・」

 要領の得ない吉野の言葉に米田はいぶかしんだが、即座に吉野は真澄に知られてはいけない事柄と判断して詳しく言わないのかもしれない、と思いあざみの方へ顔を向けた。

「あざみくん。すまないが吉野と一緒に行って、状況に対処してくれないかね?」
「わかりました。・・吉野、説明は後でいいわ。案内しなさい」
「は、はい」

 そう言って出ていこうとした吉野は、ふいに真澄の方に顔を向け、すまなさそうに言った。

「ごめんね真澄。ちょっと問題がおきて・・・・」
「こっちのことは気にしないでいいわよ。何だか知らないけど、大変な事がおきたみたいね。私にできる事があったらなんでも言ってね。微力ながら力になるわよ」
「・・・ありがとう真澄」

 それだけ言って、あざみと一緒に部屋を後にした。

「・・・・何がおこったんでしょうか?。吉野があんなに慌てる姿ってそんなに見たことないですよ」
「さあな、おおかた人間関係で問題があったんじゃねぇか?事故や怪我だのって場合は近衛か周防、ローズあたりが駆け込んで来るだろうからな」
「なるほど、人間関係の心配は吉野の担当ですか。・・・・まったく、あの娘らしいわ」
「すまねぇな、せっかく来たのにごたごたしてよ」
「いえ、人が二人以上集まれば、こういう事は起こり得るものです。たまたまそれが今日だった。それだけですよ。それに、この問題が解決できたら、一つ大きな絆になるんじゃないでしょうか?」
「そうだな、あいつらの親達もそうやって一つ一つ信頼を深めていったからな。とは言え・・・・・」
「逆にこじれてしまって、収集がつかなくなる可能性も否定できない。ですか?」

 真澄の言葉に、米田は肩をすくめた。

「ま、結局のところ成り行きに任せるしかねぇからな。そんなもんさ」
「成り行きには逆らえませんからね。あとは・・・・自分の出番があるか無いか」
「本来なら、身内のごたごたを客に任せるわけにゃぁいかんのだが、まぁ、出番があったら頼むわ」
「微力を尽くします。とだけ言っておきます」

 そう言って真澄は、微笑んだ。



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